第3部 ノラの思い出
Home > 保護犬物語 > 第3部 ノラの思い出

唇の思い出

唇の思い出というと、艶っぽい話のようですが、やはりワンコの話です。

私の下唇には小さな傷跡があります。
20年の歳月は傷跡をほとんど見えなくしてしまいましたが、指で探ると、ちいさな傷跡のしこりを感じます。

ノラの牙が食い込んだ名残です。

ノラのじゃれ方はそれは荒っぽく、私の手は生傷が絶えませんでした。 
興奮してくると背中の毛は逆立ち私に対しての牙のむき方も尋常らしからぬものがあります。
ただし、決して「権勢症候群」などではなく、 パン、パン、と手をたたき「ハイ、仲直り」の一言で スッと口を閉じ「このくらいにしといたる」と私の手を優しく舐めました。

私は犬が寝ているのを見ていると、その可愛さのあまり、 ついチョッカイを出してしまいます。
しかしその日ノラはホントに眠たかったのでしょう。
私の挑発を無視するノラ・・・しつこくホッペタを引っ張ったりしていると、彼は鼻にしわを寄せ低く唸りだします。
なおもからかい続けると『ガ~』と牙をいっぱいにむき出して警告を発しました。
「何、エッラそうにぃ」と顔を近づけた時、   
     『ガン!』 

「わん」なんてゆる~い声でなく『ガン』と言う声・・・一瞬目がくらむような衝撃を受けました。
通常もう一度、最終警告があるのですが、判断を誤りました。

耳がジーンとしています。
唇が痺れたような感覚に・・・涙があふれてきました。
「あっやられた!」血がポタポタ垂れています。

洗面所に走り傷口を洗い、ティッシュできつく押さえつけていました。暫くして恐る恐る鏡を覗き込むと傷口からみるみる血が盛り上がり、ポタタタ・・・と滴り落ちました。

「あ、こりゃいかん・・」傷口はわずか3~4ミリ程度ですが、牙が深く入り込んだようです。近所の皮膚科へと急ぎました。



受付で事情を話し急患扱いにしてもらい、すぐ診察室に入りました。
「あぁ、こりゃ縫わなきゃダメだね、で、その犬はちゃんと捕獲されたの?」医師は傷を診ながら尋ねました。
「いえ、あのう・・うちの犬で・・よく寝てたのをからかって、怒らしちゃって・・・」
後ろで看護師さんが「プッ」と吹き出すのが聞こえました。
緊張していた診察室は急に和やかになりました。
「跡が残らないように」と細い糸で二針縫ってもらい化膿止めの薬を貰い帰宅しました。

ノラはいつも通りお出迎えです。いや気のせいでしょうか、いつもよりはしゃいでいたような気もするのです。

やがてこの傷のしこりも消えてしまうかもしれません。
でも私はどんなに年老いてもかすかな痕跡を「あった、ここだ」ときっと探り当てられると思うのです。

ノラの思い出あれこれ

ラビのことを書くつもりで始めた絵日記。
少しノラの事を書いてからラビの話が始まるはずでした。
これ程次々とノラの記憶が蘇ってくるとは思いませんでた。ノラはラビと同じところに居ます。
25年前のノラのことも、ついこの前亡くしたラビの記憶と同じように鮮明です。

雑居ビルの隙間に見つけた痩せこけた汚い犬・・・
残暑の日差しを避け、力なく座っていました。
それがノラとの初めての出会いでした。

たくさんのことが思い出されます。
ノラは相棒を連れて来た事がありました。一度だけの事でした。あの相棒はどうなったのだろう・・・・

マンションの階段にに居つくようになったノラを、ほうきで追い払った辛い思い出・・・・

我が家にやってくる前、バス停で時間をつぶしていたノラ、予定より来るのが早すぎたと想ったのでしょうか?



激しく吠える犬を、一回の唸り声で黙らせてしまったノラ、カッコ良かったなぁ・・・・

離れ犬が寄って来た時、素知らぬ顔でやり過ごし、通り過ぎる一瞬に首筋に噛みついたノラ、口をこじ開けるときに、私の手は4~5ケ所穴があきました。

ドーベルマンに襲いかかったノラ、間一髪、散歩ひもで首つり状態にして引き戻しました。ゾっとした一瞬でした。

そんな「喧嘩上等」のノラですが、小さな愛玩犬から売られた喧嘩は買いませんでした。又なぜか年寄り犬には愛想よくシッポを振っていました・・・・

ノラを飼う事がなかったなら、私はラビとも会えなかったでしょう。
ラビの「思いで日記」が始まっても、ノラの話は度々、書く事になると思います。



ノラの絵(作画、妻)


すねているノラ、だそうです。

晩年のおもらしの始まった頃のノラ。

ボロッちくなった様がよく表現されています。
ヨレヨレの老犬も、それはそれでとても愛おしいものでした。
どちらも妻が走り描きしたもので、私がそれに着彩しまた。

ノラに噛みついたコロ


この犬の名はコロ、柴のミックスと思われます。
ノラの尻に噛みついた女傑であります。

ノラを飼って4~5年目くらいのことでしょうか。
その夜は妻が散歩をさせていました。
Nさんの家の前に来た時、庭から抜け出したコロがいきなり襲いかかってきたのです。

ノラがどれほど凶暴かは、いやと言うほど判っています。
「ヤバい!」妻は反射的にノラを抱え上げました。
ところが、このコロもそうとうな強者です。
その一瞬のスキにノラは尻に一撃を喰らいました。

跳びつくコロ、ブチ切れて腕の中で暴れまくるノラ、もう押さえつけてるのも限界・・・というところで騒ぎを聞きつけたN家の方が飛び出して来てコロを引き離し、間一髪、最悪の事態は避けられました。
ノラの尻も軽傷で済んだし・・・

コロはN家の広い庭に放し飼いにされていました。
私はそこを通る度にコロに声をかけ、手なづけようとしました。
が、彼女は50cm以上は決して近づいては来ませんでした。

時は過ぎ、ノラが去り暫くたった頃、初めてコロが私に頭を撫でさせる日がやってきました。
10年近く手も触れさせなかったコロ、手のひらを頭で押し返してくるコロを撫でながら、私はとても嬉しく、やがて哀しくなったのを思い出します。

それは彼女が、私から「宿敵ノラ」の気配を感じなくなったということでもありました。


 

【コラム】① ノラの年賀状

ラの年賀状が見つかりましたのでアップします。
戌年のものはフィルムを塗りつぶして、はがき写真にして1枚づつ
ほお紅は手描き、文字はスタンプで作りました。

平成8年がノラが迎えられた最後の正月でした。
このノラねずみのコスプレをラビが引き継ぐことになります。


 

 

第4部「ラビとの出会い」につづく

お問い合わせフォーム
PAGE TOP