第2部 ノラの野良犬時代
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ノラの野良犬時代①

ノラを飼い始める前に「野良犬と餌やりおじさん」と言う関係が1ヶ月以上続いたと記憶しています。

雨の日に泊めてやってからというもの、夜やって来てエサをもらい、泊めてもらって、早朝人目につかないように追い出される・・・というのが彼の行動パターンになってきました。


ある夜、いつものようにドアを開けると、興奮したノラが飛び込んできました。
 
 ・・と、部屋中に激臭が充満・・・

「ゲッ、何だ、この匂い!」  
「堆肥だ、わぁ!! コイツ堆肥まみれだ!」
犬は強い匂いにひかれ、それを体になすり付ける習性があるそうです。
おそらくノラは畑で堆肥を見つけ、たっぷり体につけまくり、大喜びで私達に自慢しにきたのです。
「どうだい、オレ様、強そうだろ!」  

部屋の匂いはしばらくとれませんでした。その頃、ファブリーズなんてなかったし・・・
私はホントに厄介なヤツと関わっちゃったな、と少し後悔していました。


ノラの野良犬時代②

まだノラと出会ったばかりの頃の話です。
妻が目撃した出来事で判明したのですが、ノラは困った問題を抱えていました。
かなり衰弱しているうえに心臓が悪いようでした。
しかもそんな体調でも、他の犬への闘争心が異常に強かったのです。

妻が茶店で仕事のアイデアを練っている時、その事件は起きました。
ものすごい犬の吠え声が聞こえ、2階のまどから見下ろすとノラが散歩中の大きな犬(秋田mix)と大げんか・・・

彼女は急いで駆けつけました。
が、その時すでにその犬は飼い主さんにひきづられるように連れ去られ、ノラだけが取り残されていました。
失神して倒れた姿で!

妻はなす術も無く、痙攣しているノラの体を、さすってやれるだけでした・・・
と、しばらくすると彼は大きく息をした後、ヨロヨロ立ち上がり
「ヤロー、逃げやがったか 今日はこれくらいにしてやる。」
とでも言うようにその場を去っていったそうです。

(私)「心臓発作かなぁ」
(妻)「かわいそうにね でもアイツ勝ったと思ってんのよ 威張ってたもん。」

そうか、ノラ、君は「負け知らず」なのか!

皮肉にもその発作のおかげで、これまで致命傷を受けずに生き延びて来れたのかも知れません。
しかし、ボロボロの体でケンカっ早い犬・・・・・
先の短い事は明らかです。

私は、町を歩きながら、つい彼の姿を捜すようになっていました。
「今日も生きてるだろうか」・・・・



ノラの野良犬時代③

ノラは私の家に泊まりにくるのが日常化してからも度々発作を起こしました。
急に静かになったと思うと、ドテッと倒れ、痙攣して失神してしまうのです。
たいがい10~20秒でケロッと復活するのですが、初めはそりゃあ驚きました。

獣医に診せたところ、栄養失調とフィラリアによる虚血性の発作だろうとの事、薬をもらい夜与えることにしました。
ノラがやって来ない夜は「逝っちゃったのかなぁ」と不安がつのりました。

'80年当初のHが丘は、住宅地に雑木林や畑も多く、のどかな町でした。
放し飼いの犬もいて「ちび」という犬など夕方になると、赤提灯の前でオスワリをして客にヤキトリをおねだりしていました。

近くの空き地には、犬小屋が置いてあって、大きな雌犬が立ち木に繋がれていました。
とても人なつこい犬でしたが、見かけはごつく、力も強いのであまりかまってくれる人も居ません。

私はよく回り道をしては、ここに立ち寄ったものでした。
ある日その空き地に行くと、いつものようにその犬は嬉しそうに私を迎えてくれました。

・・と、その大きな小屋の中にまだ動くものがあります。
「ええっ 仔犬??」・・・なんと、ゴソゴソはいだしてきたのはノラでした。
起きぬけのノラは大きくノビをして「よっ、奇遇だナ」とばかりにシッポを振りました。
      
「おまえ、泊めてくれるオンナが居るのかぁ」

この野良犬は私の昨夜の心配をよそに、オンナのところにシケ込んでやがったのです!



ノラの野良犬時代④

お泊まり事件発覚後は、彼がやって来ない夜もそれほど心配しないようになりました。
が、それも何日か続くと・・・まして雨続きだったりすると、つい外が気になって仕方ありません。

「ちょっと散歩してくる」 結局その夜、私はノラを捜しに出かけることにしました。
社員寮として使われている住宅の前に来ました。
ここには雌の柴犬が飼われています。
建物の周りはフェンスで囲われているので中には入れないはず・・・
「ええー!!!」

とんでもない光景が目に飛び込んできました。
ノラがその柴犬にマウントしているではありませんか!・・・

柴犬はそのまま歩き回っていました。
ノラは彼女の背中でグッタリしたままズルズルとひきづられています。
フェンスの裂け目から押し入ったようです。
そして柴嬢に狼藉を働き、途中で心臓発作を起こしたのでしょう。
ノラはなかなか蘇生する気配が見えません。
今、人工呼吸してやらないと、もう間に合わないかも・・・

しかし、この雨の中、真夜中、女子寮のフェンスを乗り越え、柴に吠えられ、合体した犬を引き離し人工呼吸をすることなど・・・・・・ムリです。 柴嬢が私に唸り始めました。

一旦引き揚げるしかありません。帰宅後、妻と2人で救出に向かいました。
「もう、間に合わないかもね」
もしそうだとしてもせめて遺体はひきとって埋葬してやろう、ということになりました。

ノラはもうそこには居ませんでした。よかった、自力で生還したようです。
       
カシャン・カシャン・・・

翌日の夜、ノラは4日ぶりにわが家のドアを叩きました。




ノラの野良犬時代⑤

その後しばらくして、ノラは隣町にもらわれていきました。

柴嬢はというと、徐々に乳房がふくらみ、お腹も大きくなってきました。   
どうみてもご懐妊の様子・・・

「あちゃ~、まずいねェ、でもアイツはウチが飼ってたわけじゃないからなァ...」
私達は責任逃れしながらも、柴嬢の大きくなってくるお腹を見る度に少々の後ろめたさを感じていました。

しかし人間は身勝手なものです。
たいへんふとどきとは思うのですが、そのうち「どんな子が生まれるかな」「ノラそっくりなのもいるかな」などと生まれる日を心待ちするようになってしまいました。

仔犬が生まれました。

子犬の目が開いて、犬小屋から出てくるようになって4匹生まれたと判りました。
しかし4匹とも見事に柴犬そのものです。
どの子にもノラの面影はありません。
「仔犬はこんなものかなァ」と思っていると、近所の人のこんな話が耳に入ってきました。
飼い主は純粋な柴のお婿さんを迎えたとのこと・・・

・・・そうか、ノラの子じゃなかったのか・・・

私達は罪悪感からは解放されたのですが、正直ガッカリしてしまいました。
ノラの野良時代最後のご乱行、命懸けの行動は子孫を残すという結果は得られませんでした。



ちょうどこの頃、ノラは我が家の犬になりました。
夏の終わりに医者から「冬は越せないかも」と言われた彼は 冬を生き抜き、翌年初夏を迎える頃には心臓発作も完治、引き締まった筋肉、素晴らしい毛艶を持つ犬となっていました。

「こんなに若い犬とは思わなかったなぁ」後にその医者はそう言いました。
そしてノラはその後15年間、私達とともに暮らしたのです。

柴嬢との子は残せませんでしたが、あれだけ生命力にあふれたノラのことです。
Hが丘に流れてくる途中、きっと何処かに子孫を残した事でしょう。

 




第3部「ノラの思い出」につづく

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